■目次
プレス加工に使用される材料は、その形状や特徴が加工効率や品質に影響します。
プレス加工で使用される材料は主に以下の3種類があります。
コイル材は、量産体制を支える製造業の主要材料です。
薄い金属板をロール状に巻き取った形状で、自動車部品や家電製品の大量生産に不可欠です。
特長は、自動送り装置との組み合わせによる連続供給が可能で、材料交換の手間を最小限に抑え、生産性を大幅に向上させることができます。
順送プレスや抜き加工に適しており、安定した品質の製品を効率よく生産できます。
ただし、効果的な活用には適切な張力管理や定期的なメンテナンスが必要です。
自動化・省人化が進む製造現場で、コイル材の重要性はますます高まります。
定尺材とは、予め規格化された寸法に切断された金属板材料です。
工場での扱いやすさから、寸法はメートル法や尺貫法で標準化され、例えば3×6尺(914mm×1829mm)は「サブロク」と呼ばれ広く使われています。
下記は定尺材の規格表です。
規格呼称 | 通称 | メートル法寸法 |
---|---|---|
3☓6 | サブロク | 914mm☓1829mm |
3☓8 | サンパチ | 914mm☓2438mm |
4☓8 | シハチ | 1219mm☓2438mm |
5☓8 | ゴハチ | 1524mm☓2438mm |
5☓10 | ゴトウ | 1524mm☓3048mm |
5☓20 | ゴニジュウ | 1524mm☓6096mm |
1☓2 | メーターバン | 1000mm☓2000mm |
規格化された供給形態により、在庫管理が容易になるだけでなく、必要な量だけを使用できるため、小ロット生産や多品種生産に最適です。
また、製品サイズに合わせて加工前に追加切断や調整が可能なため、材料の無駄を最小限に抑えます。
特に試作品製作や、頻繁な製品切り替えが必要な生産ラインでは、定尺材の柔軟性が大きな強みとなります。
切材は、製品設計に基づいて最適な寸法にカスタマイズされた材料です。
一般的な規格品では対応できない特殊な形状や寸法が必要な製品製造において、理想的な選択が可能です。
切材の利点は、材料コストの最適化と環境負荷の低減です。
ただし、切材の調達には事前の寸法指定や加工時間が必要なため、納期や在庫管理には十分な計画が求められます。
特に、急な仕様変更や追加発注への対応が難しい点は、生産計画時の重要な考慮事項となります。
プレス加工では、加工性や製品の要求特性に応じてさまざまな材料が選ばれます。
上記について解説していきます。
プレス加工では、普通鋼(薄鋼板)、特殊鋼、工具鋼など、用途に応じて様々な鉄鋼材料が使用されます。
普通鋼、特に薄鋼板は、製造業における基幹材料として幅広く活用されています。
特徴は、低炭素含有量による優れた加工性にあり、曲げ加工や絞り加工などの複雑な成形にも柔軟に対応できます。
代表的な規格として、一般用途のSPC、高張力鋼板のSPH、自動車用のSAPH、さらに高強度が求められる用途向けのSPFCなどがあります。
これらは自動車のボディパネルから、電気機器の筐体、オフィス家具まで、私たちの身近な製品に使用されています。
安定した品質と経済的な価格帯を両立している点が、製造業に広く受け入れられている理由です。
特殊鋼は、鋼材に特定の合金元素を加えることで高性能を実現した材料です。
産業機械や精密機器など、高い性能要求に応える重要な材料として位置づけられています。
代表的な種類として、クロムやモリブデンを含有するSCM系合金鋼、炭素量を調整したSxxC系鋼材、クロム添加のSCr系があり、それぞれが高強度や耐摩耗性を特長としています。
これらは、工作機械の部品や各種工具など、高い信頼性が求められる用途で活用されています。
また、ステンレス鋼(SUS)は優れた耐食性で、食品機械や医療機器に、ばね鋼(SUP)は高い弾性特性を活かして自動車のサスペンションなど、過酷な使用環境下での重要部品として広く採用されています。
工具鋼は、金型製作や切削工具に不可欠な材料です。
高い硬度と優れた耐摩耗性を併せ持つことで、過酷な加工条件下でも安定した性能を発揮します。
代表的な工具鋼には、金型用途で広く使用されるSKD(ダイス鋼)と、切削工具の定番であるSKH(ハイス鋼)があります。
SKDは耐熱性と靭性のバランスに優れ、プレス加工用金型として高い信頼性を誇ります。一方、SKHは高温での硬度維持に優れ、高速切削加工において威力を発揮します。
工具鋼は、被加工材の種類、加工速度、要求精度などの条件を総合的に考慮して選定されます。
アルミニウム合金や銅合金などの非鉄金属材料も使用されます。
軽量性、耐食性、導電性などに優れ、それぞれ異なる特性を持つため、用途に応じて適切な材料選定が求められます。
アルミニウム合金は、様々な産業分野で活用される代表的な非鉄金属材料です。
添加される合金元素により、1000系から7000系まで分類され、それぞれ独自の特性を持ちます。
最も基本的な1000系は、99%以上の純アルミニウムで構成され、優れた加工性と導電性を特徴としています。
この特性を活かし、食品包装材や家庭用品など、日常生活に密着した製品に広く使用されています。
一方、より高度な性能が求められる産業用途では、2000系や5000系が活躍します。2000系は銅を添加することで高い強度を実現し、航空機部品などの高負荷部材として採用されています。
また、5000系はマグネシウムの添加により耐食性が向上し、海水に強い特性を活かして船舶の構造材や自動車部品として重要な役割を果たしています。
銅合金は、電気・電子機器産業における重要な基盤材料です。
特に高い電気伝導性が求められる電子部品や配線材料において、その特性は他の追随を許しません。
代表的な銅合金であるタフピッチ銅(C1100)は、99.9%以上の純度を持つ高純度銅です。
電気伝導性に加え、耐食性と加工性を併せ持つことから、電線や端子などの基幹部品に広く採用されています。
また、亜鉛を含有する黄銅(C2600、C2801)は、優れた加工性を特長としています。
特に深絞り加工や複雑な形状の成形に適しており、コネクタやスイッチなどの精密電子部品の製造に不可欠な材料として、産業界で重要な位置を占めています。
チタンやマグネシウムなどの特殊金属は、従来の金属材料では実現できない優れた特性を持っています。
チタンは、鉄の約60%の軽さでありながら、同等以上の強度を持ち、さらに耐食性も兼ね備えています。航空宇宙産業での構造材料や、生体適合性の高さを活かした医療機器のインプラント材料として重宝されています。
一方、マグネシウムは実用金属中最軽量で、アルミニウムと比べても約3分の2の軽さを誇ります。自動車部品や携帯電子機器の筐体など、軽量化が求められる製品に採用が広がっています。
ただし、特殊金属は加工時の温度管理や専用工具の使用など、高度な技術と設備が必要となるのが特徴です。
非金属材料、特にCFRP(炭素繊維強化プラスチック)は、プレス加工技術の新たな可能性を切り開く革新的な素材です。
従来の金属材料では実現が困難だった「軽量性」と「高強度」の両立を実現し、産業界に大きな変革をもたらしています。
航空機の機体部品や人工衛星の構造材、さらにはF1マシンのボディや高級スポーツ用品まで、高度な性能が要求される分野で採用が進んでいます。
圧倒的な軽量性は、環境負荷低減や性能向上に大きく貢献しています。
ただし、CFRPのプレス加工には、金属材料とは異なる特殊な条件設定が必要です。温度管理、圧力制御、金型設計など、専門的な知識と設備が不可欠となります。
プレス加工における材料選定では、製品の要求性能を満たしながら、加工性やコストも考慮します。
強度や耐食性、導電性といった特性に加え、生産量や納期、設備の自動化レベルなども材料選定の要素です。
最適な材料選定が、高品質な製品を効率的に生産する鍵となります。
加工のしやすさと最終製品に求められる性能のバランスを適切に取ることが、製造プロセス全体の最適化につながります。
例えば、高い強度や耐久性が要求される自動車の構造部品では、SCMなどの特殊鋼が選ばれます。
一方、複雑な形状が必要な家電製品の外装部品では、加工性に優れた普通鋼やアルミニウム合金が適しています。
材料形状の選択は、生産効率やコスト管理に影響する重要な判断基準です。適切な材料形状を選ぶことで、生産性の向上とコスト削減の両立が可能になります。
大量生産ラインでは、連続供給が可能なコイル材が最適な選択となります。自動送り装置との組み合わせにより、作業効率の向上と人件費の削減を実現できます。
一方、多品種少量生産の場合は、柔軟な対応が可能な定尺材や、無駄の少ない切材が効果的です。
このように、生産数量、製品切り替え頻度、設備の自動化レベルなど、様々な要因を考慮した材料形状の選択が、生産計画の成否を左右します。
納期や在庫管理を効率化するには、材料形状の最適化が不可欠です。
材料選定において、品質とコストのバランスは製品競争力を左右する要素です。
高品質な製品を実現するために高価な材料を選択すれば、必然的に製造コストは上昇します。一方で、過度なコスト削減を目的とした安価な材料の使用は、製品品質の低下を招く可能性があります。
このトレードオフを最適化するためには、製品の市場ポジショニングを明確にすることが重要です。
高い信頼性が求められる産業機器では、耐久性に優れた材料の使用が不可欠です。一方、消費財では適度な品質と価格のバランスが求められます。
プレス加工では、被加工材の硬度や特性に合わせた金型材の選定が重要です。
金型材の硬度や耐摩耗性が不足すると、金型の早期摩耗や破損に繋がり、生産効率の低下や品質不良を招きます。
適切な金型材を選定すれば、安定した品質と生産性を実現できます。
プレス金型材料の選定において、ダイス鋼(SKD)とハイス鋼(SKH)は、それぞれの特性を活かして使い分けられる代表的な工具鋼です。
性能の違いは、製品品質と金型寿命に大きく影響を与えます。
ダイス鋼は、優れた耐摩耗性と靭性のバランスが特徴です。一般的なプレス加工における金型材料として広く採用されており、特に中・低速域での加工に適しています。
耐久性と経済性を両立させた材料として、産業界で確かな実績を持っています。
一方、ハイス鋼は高温下でも硬度を維持できる特殊な工具鋼です。チタンなどの難加工材や、高速プレス加工における金型材料として重宝されています。
特に、高い生産性が要求される自動車部品などの量産ラインでは、その性能を存分に発揮します。
金型材料の選定では、被加工材硬度の適合性が重要です。
バランスを考慮すれば、金型の寿命を最適化し、製造コストの効率化の実現が可能です。
硬度の高いステンレス鋼やチタン合金などの加工では、金型への負荷が大きくなります。そのため、ハイス鋼(SKH)に代表される高耐久性の金型材料が必要不可欠です。
これにより金型の早期摩耗や破損を防ぎ、安定した生産を維持できます。
アルミニウムや軟鋼板の加工には、過剰な性能の金型材料は必要ありません。
標準的なダイス鋼(SKD)でも十分な耐久性を確保でき、初期投資とランニングコストの最適化が可能です。
金型材料の適切な選定は、製造工程全体の効率化とコスト最適化に大きく貢献します。
一見、高価な金型材料の選択は初期投資を増加させるように見えますが、長期的な視点では大きな経済的メリットをもたらします。
耐久性の高い金型材料を採用することで、金型の寿命が延び、交換頻度を削減できます。
金型交換に伴う生産ラインの停止時間が最小限に抑えられ、製造の連続性が確保され、結果として、生産効率の向上と維持コストの削減が実現できます。
長期的な運用を見据えた材料選定が、持続的な競争力の維持につながります。
プレス加工に用いる鉄鋼材料と非鉄金属材料の詳細について解説していきます。
鉄鋼材料は、プレス加工における最も重要な基幹材料です。
全材料使用量の90%以上を占め、その製造工程により大きく2種類に分類されます。
それぞれの特性を活かし、様々な製品製造に活用されています。
プレス加工用鋼板は、「熱間圧延鋼板」と「冷間圧延鋼板」に大別されます。
熱間圧延は900℃以上の高温で加工を行うため、厚板の製造に適していますが、表面は酸化しやすい特徴があります。
一方、冷間圧延は常温で加工するため、薄板の製造に向いており、優れた表面品質と高い寸法精度を実現できます。
以下それぞれの特徴です。
種類 | 特徴 |
---|---|
熱間圧延鋼材 | ・高温で圧延加工を行い、厚板や形鋼を製造 ・比較的厚い材料の製造に適する ・コストパフォーマンスが高い |
冷間圧延鋼材 | ・常温で圧延加工を実施 ・表面品質が優れている ・薄板の製造に適している ・寸法精度が高い |
プレス加工用鋼板は、求められる特性によって様々な種類が用意されています。
鋼材を3つに分類し、それぞれの特徴を以下にまとめました。
種類 | 特徴 |
---|---|
一般構造用鋼材 (規格: SS400、SM490など) |
・標準的な強度 ・良好な溶接性 ・経済的な価格 |
高張力鋼板 (規格: SAPH370、SAPH400など) |
・高強度 ・軽量化に貢献 ・自動車部品に多用 |
深絞り用鋼板 (規格: SPCE、SPCDなど) |
・優れた加工性 ・均一な材質 ・表面品質が良好 |
種類 | 記号 | 引張強さ(N/mm²) | 特徴 |
---|---|---|---|
熱間圧延鋼板 | SPHC | 270以上 | ・一般用途向け黒皮/酸洗(SPHC-P)材として供給 |
SPHD | 270以上 | ・絞り加工用途に最適 | |
SPHE | 270以上 | ・深絞り加工向け特殊用途 | |
SAPH310 | 310以上 | ・自動車用高強度材 | |
SAPH370 | 370以上 | ||
SAPH400 | 400以上 | ・強度別にグレード展開 | |
SAPH440 | 440以上 | ||
冷間圧延鋼板 | SPCC | 270以上 | ・一般用途向け標準材 (ミガキ材) |
SPCD | 270以上 | ・絞り材 | |
SPCE | 340以上 | ・深絞り材 |
プレス加工に使用される各種鋼材は、それぞれが特徴的な性質を持ち、用途に応じた最適な選択が可能です。
以下の表は、代表的な鋼材の種類とその特性、主な用途をまとめたものです。
材料名 | JIS記号 | 特徴 | 主な用途 |
---|---|---|---|
薄鋼板 | SPC、SPH、SAPH、SPFC | 優れた加工性と表面品質、特に深絞り加工への適性が高い | ・自動車ボディパネル ・家電製品筐体 ・建築用パネル ・一般産業機器 |
合金鋼 | SCM、SxxC、SCr | クロム、モリブデン添加による高強度・耐摩耗性 | ・高負荷機械部品 ・工作機械部品 ・精密機器部品 ・各種ギア・軸部品 |
ステンレス鋼 | SUS | 耐食性と美観 | ・厨房機器 ・医療機器 ・食品加工設備 ・外装パネル |
ばね鋼 | SUP | 弾性特性と耐疲労性 | ・自動車サスペンション ・各種スプリング ・精密機器ばね部品 |
鉄鋼材料に加えて、アルミニウム合金や銅合金、チタン、マグネシウムなどの非鉄金属材料も重要な役割を果たしています。
これらの材料は、軽量性、導電性、耐食性など、それぞれ独自の特性を持ち、電子機器、航空宇宙、医療機器など、高度な要求性能が求められる分野で活用されています。
特徴や用途など下記表にまとめました。
材料名 | 系統/JIS記号 | 特徴 | 主な用途 |
---|---|---|---|
アルミニウム合金 | 1000系 | 純アルミで加工性が高い | 反射板、装飾品 |
2000系 | 銅を添加し、高強度を実現 | 航空機構造材 | |
4000系 | ケイ素を添加し、溶接性を向上 | 溶接材料 | |
5000系 | マグネシウムを添加し、耐食性を強化 | 船舶、車両 | |
6000系 | マグネシウムとケイ素を添加。強度と加工性のバランスが良い | 建築材 | |
7000系 | 亜鉛を添加し、最高クラスの強度を実現 | 航空宇宙分野 | |
タフピッチ銅 | C1100 | 純銅で電気伝導性が高い | 電線、配線材 |
丹銅 | C2400 | 銅と亜鉛の合金で、耐食性と加工性に優れる | 装飾品、楽器 |
黄銅(深絞り用) | C2600 | 深絞り性が高く、複雑な形状の加工に適する | 管楽器、装飾品 |
黄銅(強度・展延性高) | C2801 | 強度と展延性が高い | 機械部品、金具 |
表のとおり、非鉄金属材料は、アルミニウム合金と銅合金が代表的です。
アルミニウム合金は、合金系列ごとに特徴的な性質を持ちます。1000系は純度99%以上の純アルミで、加工性と導電性に優れ、食品包装などに使用されます。
2000系は銅添加により高強度化され、航空機部品などに採用。5000系はマグネシウム添加で耐食性を向上させ、船舶部品に適しています。
一方、銅合金では、タフピッチ銅(C1100)が99.9%以上の高純度銅で、優れた導電性と加工性を持ち、電気部品に最適です。
黄銅(C2600、C2801)は亜鉛を含有し、深絞り性に優れ、精密電子部品などの複雑な形状の製品製造に使用されています。
材料選定は製品の品質やコストに直結する重要なプロセスです。
当社ではお客様のニーズに合わせた最適な材料選びをサポートいたします。
加工性やコスト、製品の要求特性など、さまざまな要素を総合的に考慮し、ご提案いたします。
材料選定でお困りの際は、ぜひ当社へお気軽にご相談ください。(ご相談は無料です)